『風が吹いた、帰ろう』

ART SETOUCHI イベント
劇団桃唄309
『風が吹いた、帰ろう』
戯曲・演出 長谷基弘
2017年09月23日() - 24日()
サンポートホール高松 第1小ホール

この劇について

いきさつ

2014年10月 『大島に行こう!ラジオ番組づくりワークショップ』 (主催:高松市 企画・運営:NPO法人瀬戸内こえびネットワーク) の主講師を、 桃唄309の長谷基弘がつとめる。
この際、長谷は「大島のことを急いで劇にしなくては」と強く思ったという。

2014年11月 『風が吹いた、帰ろう』の劇中歌『かえろう』を作詞(長谷)。 翌年1月にはメロディも完成。 この時点では非公開。

2014年12月 座・高円寺(東京)での「日本劇作家協会プログラム(2016年度)」の上演作品候補として、 『風が吹いた、帰ろう』の上演企画書を提出。翌春に企画が通る。

2015年4月 短編劇集 vol.8 春カフェ『健康いろいろ』 (主催:劇団桃唄309) での上演作品の一つとして、 中編劇『202X年、帰ろう』を上演。
『風が吹いた、帰ろう』の準備企画第一弾として製作。 演劇人たちが作品づくりのため、 住む人のいない未来の大島を訪れる、という内容。
また、準備企画第二弾として、先述の歌『かえろう』にあわせて踊られるジェストダンスも製作・披露。

2015年7月 『大島に行こう!アートと自然を楽しむサマーキャンプ』 (主催:高松市 企画・運営:NPO法人瀬戸内こえびネットワーク) の演劇ワークショップ講師を、 桃唄309の長谷基弘がつとめる。

2015年8月 短編劇集 vol.9 夏カフェ『冒険いろいろ』 (主催:劇団桃唄309) での上演作品の一つとして、 中編劇『あいまい宝島』を上演。
『風が吹いた、帰ろう』の準備企画第三弾として製作。 「自我と記憶とことばをそこなう病気」にかかった患者たちが、島に隔離され、 第二の人生を模索していく物語。

そして、充分な準備期間を経て……

2016年5月 『風が吹いた、帰ろう』 を初演。劇場は東京、座・高円寺1

さらに……

2016年の初演時に、瀬戸内国際芸術祭総合ディレクターの北川フラム氏が観劇(トークゲストとしても出演)。
その後ほどなくして、ART SETOUCHI EVENTでの上演企画が始動する。

公演終了。ありがとうございました!

『風が吹いた、帰ろう』

2017年09月23日(土) - 24日(日)
サンポートホール高松 第1小ホール

なにを感じてつくり始めたか

劇団桃唄309の長谷基弘です。
2014年に初めて大島青松園を訪れた時のことは、いまも身体のなかに残っています。
ワークショップでつくるラジオ番組の素材集めのため、 入所者の皆さんのお話しをたくさん聞きました。
多くの方がそうではないかと思いますが、 初めてハンセン病関連の施設に行ったり、元患者の方々と会う人は、 歴史的経緯からくる「ある種のうしろめたさ」を、あらかじめ抱いているのではないかと思います。 ぼくもそうでした。
さて当時のぼくは、 自分のブログにこんな言葉を書いていました。

島行った結果、入所しているおじいさんおばあさんの話を聞くのがたまらなく楽しい、 というのに気付いた。重い体験談や昔の療養所の様子などですらも、ニュートラルに語ってくれるので、 すんなり聞ける。実際ちょいちょいギャグを挟む方もいた。この楽しさを形にしたい、と思った。

「知る」ことの楽しさ、人と出会うことことのうれしさ、人の暖かさ。
想像を絶する体験をなさった方々と会いお話しを伺ったのにも関わらず、 あろうことかぼくは、そういったことを改めて実感したのです。 この実感も、劇にしたいと強く思いました。

ハンセン病にまつわる、そびえ立つ負の歴史。 それらを知るには、素晴らしい書籍や映像がたくさんあります。 ハンセン病を知るには、まずそういった本や映像に触れるのが一番良いと思います。

じゃあ演劇でなにを伝えたらいいのだろうか。 悲しいできごとをそのまま描いたら、とても悲しく、 そして感動的な劇ができるかもしれない。 なんて可哀想なんだろう、と心から思える劇ができるかもしれない。 だけどそれは別の形の差別や偏見なのではないだろうか。
そんなことを必死に考えながら、この劇をつくっていきました。

現代を生きる「私たち」の物語ができました。

長谷基弘(劇作家・演出家・劇団桃唄309代表)

登場人物

この劇では、大まかに4つの人物グループがあります。


1. 島

戦前から戦後にかけてハンセン病の国立療養所のある香川県の大島に隔離され、生きた人たち。 隔離され、謂われのない偏見や差別を受けてきたこと以外は、「私たち」と何ら変わらない。

ある女

昭和の始め頃に大島に入所し、残りの生涯を島で過ごし、らい予防法が廃止される前年に逝去した女性。劇中全編を通し、時に見守り、時に語り、時にかきまわす。

(かず)

「ある女」の、入所したての若かりし頃から熟年期にさしかかる頃までの姿。十代で結婚し一児を設けるも、ハンセン病が発症したことで離縁され、大島に隔離される。

木村 (きむら)

島で熟年期に入る頃までの間、「和」と同じ時を過ごした入所者の男性。インテリでロマンチスト。島に来る前は尋常小学校の教師だった。

小松なを (こまつなお)

10歳で発症し、両親に連れられ御遍路の日々を過ごすも、引き離されて大島に入所。和や木村に世話をされながら島で育ち、老いていく。現在は縁あって東京で暮らしている。

2. 東京

無数の人間が忙しく行き交う超巨大都市で、時に器用に、往々にして不器用に暮らしている人たち。 それぞれの形で、それぞれのタイミングで、ハンセン病という事象に触れていく。

鞠村 (まりむら)

心の病で失職し、引きこもりのような生活を過ごす無気力な女性。劇中を通し、様々な人と出会うなかで、ほんの少しずつ歩み方を変えていく。

末武 (すえたけ)

鞠村の数少ない友人。イラストレーター。鞠村を放っておけず、引っ張り回す。男運の悪い人生を過ごしてきたようだが、今は安定している模様。

津城 (つしろ)

どこかの大学でハンセン病をとりまく事象について研究・調査しているらしき女性。いろいろな現場に顔を出し、いつの間にかいなくなる。顔が広い。ネットに大量の論文や調査報告を公開しているらしい。

西森 (にしもり)

会社員だった男性。戸籍から消されたハンセン病の祖母がいることが判明して以来、婚約破棄、失職など、人生の転落を味わうことになってしまう。詩を書くのが趣味?

若宮 (わかみや)

とあるグループ企業の、経営者一族の末端にいる男性。傘下の中堅出版社に、名ばかりの編集者として在籍している。基本は不真面目だが、一途な面もあるのかも。

六沢 (ろくさわ)

中堅出版社の編集者。いつも粛々と仕事をこなしている。やり手なのかもしれない。「若宮」よりも年下ながら上司にあたる。が、社全体としては下の立場らしい。観劇好き。

3. 歌とジェストダンス

ハンセン病を題材とした「歌とジェストダンス」の独自企画のために集まっている、女性だけのチーム。 結束力はないが、それぞれにパワフル。 ジェストダンスとは、ジェスチャーを中心に構成した形式のダンスで、内在する「ことば」が豊かなパフォーミングアートである。

日野 (ひの)

歌手、声優、俳優。「西森」と婚約していたが、西森の祖母がハンセン病だったと判明した後、家族に猛反対され婚約は破棄となった。現在は「只倉」と共に、ハンセン病にまつわる「作品」を製作中。

只倉 (ただくら)

ダンサー、俳優。「日野」や師匠の「踊り手」を巻き込み、ハンセン病を題材とした「ジェストダンス」を製作中。「小松なを」や「津城」に度々取材し、「和」の生涯を題材にした作品をつくろうとしている。

踊り手

キャリアの長い舞台俳優であり、劇作家、演出家でもある。「ジェストダンス」の生みの親(の一人)。舞台や映像の仕事で忙しいため、只倉たちの稽古にいつも顔を出すわけではないが、来た時の影響は大きい。

4. 練馬シェークスピア一家 (N.S.F.)

シェークスピア戯曲をアレンジした祝祭劇をするユニット。普段は皆、それぞれに活動している。劇には出てこないが、他に座付き作家と演出家がいるらしい。
東京と大島で『テンペスト』を上演する予定で、悩みつつ、支えあいつつ稽古に励んでいる。 『テンペスト』は、島に流刑された主人公が、十数年後に魔術で復讐しようとする話。

猫島恒友 (ねこじまつねとも)

中堅の俳優。題材に向かって常にまっすぐ全速力でぶつかっていくことから、つねさん、またはリーダーの愛称で呼ばれている。『テンペスト』ではナポリ王の役、他。

山羊山青 (やぎやまあお)

中堅の俳優。勘で物事を捉えるが、いつもだいたいあっている。性格・趣向の全く違う「六沢」と同棲中。『テンペスト』ではファーディナンド王子の役。

テリー帯沢 (てりーおびさわ)

俳優、スタジオミュージシャン。堅実な職人肌で、一座のバランサー的役割を果たす。食べ物が好き。「末武」と交際中。『テンペスト』ではミランダ(プロスペローの娘)の役。

泡田誠二 (あわたせいじ)

俳優。最若手ゆえ、一座の事務や演出助手的なこともこなしている様子。猫島を尊敬しているが、尊敬しすぎて時々おかしなことになる。『テンペスト』ではエアリエル(プロスペローに仕える精霊)の役、他。

獅子唐はじめ (ししとうはじめ)

俳優。茨城県出身。バイク便のバイトをしている。ぼんやりしているようだが時々本質を突く、が、理解はされない。『テンペスト』ではキャリバン(プロスペローの奴隷で怪物)の役、他。

座長 (ざちょう)

キャリアの長い舞台俳優。出演や演出の仕事で大変忙しい。一座では座長と呼ばれているが、ニックネームのようなものらしい。『テンペスト』ではプロスペロー(島の主である魔法使い)の役。

似顔絵: 佐藤達

物語

(※写真は2016年の初演時のものです。クリックで拡大表示します。)

『風が吹いた、帰ろう』は、香川県の大島と東京を舞台に展開する、ハンセン病をめぐる群像劇。

昭和初期、夫に離縁され子供と引き離され、 大島の療養所に隔離された女性「かず」。
生活の変化に戸惑い、孤独感と理不尽さに苦しみつつも、島に生き、島で愛を育み、別れを味わい、 時に偏見や差別にさらされ、島で年老い、やがて島で死んでいった。

そんな彼女の生涯に軸を置き、 現代を生きる「私たち」がハンセン病という事象に触れ、 少しずつ心を動かされていく様子を、 等身大の視座で丁寧に描いていく。

ある劇作家は、 大島青松園で演劇ワークショップをしたことがきっかけでハンセン病に深い関心を抱き、 島の成り立ちを神話時代にまでさかのぼる勢いで、徹底的に調べ始める。

ある男は、東京の会社員。 戸籍から消されたハンセン病の祖母(約20年前に逝去)の存在が判明し、 婚約を破棄された。以降、人生の歯車がうまく回らなくなっていく。 彼は、祖母がかつて暮らしていたという大島青松園を訪れるが……。

ある演劇ユニットは、歌あり踊りありの祝祭劇を得意としており、 現在は療養所でのシェークスピア劇の上演に向け、稽古に励んでいる。 普通とは違う(と彼らは思っている)観客に見せることに悩む彼ら。 下見に大島を訪れ、東京で稽古し、議論を重ね、下見時に行き損ねたメンバーもやがて大島を訪れ……。

ある新米編集者は、 無関心・無感動のまま都会の日々を過ごしていた。 気まぐれに老人を助けたことが縁で、表現活動にたずさわる女性に恋をし、 ハンセン病と関わり始める。彼はその女性に会いたいがために、 ハンセン病関連の書籍を企画し、大島を訪れることになる。

ある無職の女は、 世と人を恨みつつ無為に日々を過ごしていた。 ある日、人ごみのなかで大島青松園元入所者の老人と知り合う。 そのことがきっかけとなり、友人と共に大島を訪れ、 多くの人たちと出会うようになり、世界の見え方が少しずつ変わっていく。

ある女性たちは、 昭和初期に大島に隔離され、らい予防法廃止の前年に亡くなった「かず」 の生涯を題材に、歌とダンスのパフォーマンス作品を作ろうとしてる。 彼女たちは積極的に題材にあたり、大島も訪れ、やがて力強い「作品」を生み出していく。

人と人が出会えば、小さな「波」が生まれる。
波はやがて、交わりあい、大きなうねりとなっていく。

今を生きる「私たち」が、ハンセン病とどう向き合っていくかを問いかける現代演劇。
たくさんの笑い、ダンスパフォーマンス、音頭、歌なども交えながら。
『風が吹いた、帰ろう』

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