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奄美大島で作った創作民話『裏山の二本の松』

2011年度に奄美大島の宇検村立久志小中学校という学校でつくった、創作民話を紹介します。

2011年度は、宇検村でのワークショップで4つの民話を、2つの学校の子供達がつくりました。今年度も、2つの民話をとある学校でつくりました。これもいずれ紹介します。

過去このブログで紹介したのは以下の2作品です。作った経緯なども軽く触れています。

→ 『岩とポインセチアとパパイヤ』 (2011年度 久志小中学校)
→ 『校門の横のガジュマル』 (2011年度 名柄小中学校)

以下、創作民話の本編。文章は私が書きましたが、話の筋をつくったのはあくまでも、久志校の子どもたちです。今回の物語にも、奄美にいる精霊のような妖怪のような存在「ケンムン」が登場します。

■裏山の二本の松

久志小中学校の裏山に、二本の松の木が、仲良く寄り添うように立ってます。
ほかの松の木とは違い、二本の松は遠くから見てもわかるくらい、ひときわ目立っています。
二本の松は、いつからそこに立っているのでしょうか。これには不思議な云われがあります。
それは……。

むかしむかし、まだ久志小中学校がなかった頃のこと。
久志集落の山には、ケンムンの三兄弟が暮らしていました。三兄弟はとても仲良しでした。
村人が山に入ると、ごく稀に、仲良く遊ぶケンムンたちの姿を見かけることがありました。その姿は微笑ましく、見ていて心があたたまったといいます。

さて、この山には、大昔から生える松の大木がありました。
どれくらい大木かと言うと、海をはさんだ阿室や屋鈍からも、天にそびえるその姿がハッキリ見えるくらいです。松の大木は土砂崩れから村を守ってくれるため、村人たちは「神様の松」と呼び、とても大切にしていました。

ある年のこと。
兄ケンムンたちは弟ケンムンの誕生日に、大好物のイノシシを贈ることにしました。
「大きいイノシシをとって弟をびっくりさせよう!」
「シマで一番大きいイノシシをとろう!」

兄ケンムンたちが張りきってとったのは、胴まわりがお相撲の土俵くらいもある大イノシシでした。
兄ケンムンたちは、木の皮を上手に削って大きな熨斗をつくりイノシシに巻き付けました。また、別の木の皮に字を刻み、兄たちから弟への手紙としてイノシシに添えました。
「それにしてもこのイノシシ……どうやって焼こうか。たきぎがたくさんいるぞ」
「それならあの大きな松の木を切ろうよ! あれだけ大きければじゅうぶん焼けるよ!」

兄ケンムンたちは、松の大木の根もとにきました。そしてケンムン太鼓をドンドコ叩きつつ、大木のまわりをぐるぐる跳びはねながら、ケンムンに伝わる「木をたおす歌」を歌いました。
松の木はゆさゆさ揺れ、やがて根もとの幹がパキッと割れ、ぎぎぎぎぎぃという音と共に、葉を散らしながら倒れていきました。

ふもとでは村人たちが大騒ぎ。
「大変だ! 神様の松が倒れるぞ!」
「見ろ! ケンムンたちがはしゃいでいる! あれはケンムンの仕業だ!」

松の大木が倒れるとき、散っていく葉っぱといっしょに、よれよれの着物を着たお年寄りが、兄ケンムンたちの目の前にドスンと落ちてきました。
「いててて! 腰を打ったぞ!」と腰をさすりながらおじいさんが言いました。
兄ケンムンたちはびっくり。
「わぁ、だれか落ちてきた!」
「おじいさんはどなた?」
「わしは焼内の神だ!」
「神様?!」とケンムンたちはまたびっくり。神様は言いました。
「村を守る松を倒すとは、いたずらにもほどがある!」
神様は、腰をさすりながら立ち上がりました。その姿は、落ちてきた時よりもずっと大きく見えました。顔は炎のように真っ赤。目はつりあがり、長い白髪を逆立て、おそろしげです。
兄ケンムンたちは怖くなり、地面に座りこみ、互いに寄り添ってぶるぶる震えました。

「この松はわしのすみかでもあった。わしは家なしになってしまったぞ。おまえたちはなんてことをしくれた!」
神様がケンムンたちを睨むと、あたりから濃い霧が立ちこめてきました。霧は生き物のように二人の兄ケンムンを取り囲み、まとわりつきました。
やがて霧は散っていきましたが、そこにはケンムンたちの姿はなく、松の木が二本あるばかりでした。

弟ケンムンは、夜になっても帰ってこない兄たちをいつまでも待ちました。
日があけて、弟ケンムンは兄たちを探しに出かけました。そして、倒れた松の大木と、そのそばに立つ二本の、松の若木に気付きました。その根もとにはケンムン太鼓が落ちていました。

「これは兄(にぃ)たちの太鼓だ。きっと神様の松を倒したから、松の木に変えられてしまったんだ」
弟ケンムンは、二本の松の木の間に座りこみ、わんわん泣きました。何日も何日も泣き続けました。
その声は村にまで聞こえましたが、村人はみな、大木を切られたことを怒っていたので、耳をふさいで聞こえないふりをしていました。
からだ中の水を絞り出して泣いたため、弟ケンムンはだんだんとやせ細り、小さくなり、やがて消えてしまいました。その様子を、兄ケンムンの松の木はずっと見ていましたが、動くことも話すことも、なにもできませんでした。

それからしばらくたってのこと。
古い松の大木が切られてしまったため、村では土砂崩れがよく起こるようになりました。
「ケンムンの松なんぞ、見ているだけで憎々しい。切ってしまおう!」
村人たちは斧を手に、山を登ろうとしました。が、意外にも、家をなくしたあと村に居着いていた神様が、皆を止めました。神様は言いました。
「あんな松の木でも、やがて根を深く張り、土砂崩れを防ぐかもしれん。切ってはならん」

ある時、キノコを採りに山奥に入った村人の一人が偶然、うっそうとした木々の間で、大きな大きなイノシシの骨をみつけました。そのそばには腐りかけた木の皮が落ちていました。木の皮には字のようなものが刻まれていました。
村人は、木の皮を持ち帰りました。が、木の皮の字を読める者は、誰もいませんでした。
「これは人間の文字とは違う」「そうだ、神様なら読めるかもしれない」
村人たちが取り囲むなか、神様は木の皮を手にとってしげしげと眺め、言いました。
「ふむ……これはケンムンに伝わるケンムン文字だ。こういうことが書かれておる。『ぼくたちの弟へ。おたんじょう日おめでとう。きみがおとうとでうれしい。このイノシシを食べて、げんきいっぱいで、いつまでも三人、仲良くくらそうね。弟がだいすきな兄(にぃ)たちより』」

村人たちは、かつてケンムンの兄弟たちが、山のなかで仲良く遊んでいた姿を思い出しました。
ケンムンたちにも家族を大切にする気持ちがあることに気付いた村人たちは、いなくなってしまったケンムンたちのことが、なんだかかわいそうになってきました。
村人たちがケンムンたちをあわれんでいるのを見て、神様が言いました。
「ちょっとの間だけなら元の姿に戻せるかもしれん」
村人たちは口をそろえ「是非そうしてあげてください!」と頼みました。

神様と村人たちは山に登り、二本の松のところへ来ました。神様が松の木に手をあてると、あたりに濃い霧がたちこめてきました。霧が晴れると松はケンムンの姿に戻っていました。

ケンムンは、村人たちに、村を守る松の大木を倒してしまったことを謝りました。
それから数日の間、兄ケンムンたちはお詫びの印にと、崩れた土や岩をどかしたり、崩れたところを固め、新しい木を植えたりしました。
「弟ケンムンは消えてしまったけど、そのぶんも僕たちががんばらなきゃ!」
「二人だけになってしまったけど、三人ぶんの働きをするぞ!」
あっという間に、村は元通りになっていきました。
元の姿でいられる最後の日の夜、ケンムンたちは村人たちに見送られ、山に帰っていきました。
翌朝、村人たちが山を見上げると、そこには二本の松がありました。

時が経ち、ケンムンの松の木は、根や枝をひろげ、土砂崩れから村を守ってくれるようになりました。村人たちはケンムンの松に感謝し、木のまわりを掃除したり、手入れをしたりしました。
さらに時がたち、二本の松がケンムンだったことを覚えている人は誰もいなくなりました。
それでも二本の松はどんどん大きくなりました。今では久志で一番の、古い大きな松の木です。木の上には神様がいごこち良く住み、焼内の海を静かに見守っているかもしれません。

以上です。学校の裏山に実際に生えている松の木から想像を広げ、子供達がワークショップを通してお話を考えました。

ブログ記事にしていない宇検での創作民話は、あと3つあります。2011年度のが1つ、去年つくったのが2つ。いずれまた紹介していきます。