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奄美大島で作った創作民話『廊下のつきあたりから見えるヤシの木』

2011年度に奄美大島の宇検村立名柄小中学校でつくった創作民話を紹介しますシリーズ。

2011年度は、宇検村でのワークショップで4つの民話を、久志小中学校、名柄小中学校の子供達がつくりました。2012年度も、2つの民話を同村の阿室小中学校でつくりました。これもいずれ紹介します。

過去このブログで紹介したのは以下の3作品です。

→ 『岩とポインセチアとパパイヤ』 (2011年度 久志小中学校)
→ 『校門の横のガジュマル』 (2011年度 名柄小中学校)
→ 『裏山の二本の松』 (2011年度 久志小中学校)

併せて読んで頂けたら幸いです。

以下、創作民話の本編。文章は私が書きましたが、話の筋をつくったのは子どもたちです。

廊下の突き当たりから外に出たところに生えている、小さいヤシの苗を見て、想像を膨らませてお話にしました、子どもたちが。

■廊下のつきあたりから見えるヤシの木

1

名柄小中学校の特別活動室の前の廊下から、二本の小さいヤシの木が見えます。
風にゆさゆさ揺れるヤシの葉は、空を羽ばたいているようにも見えます。時には笑いあっているようにも。
いつからそこにあるのでしょうか。
それは……。

2

むかしむかし、まだ名柄小中学校がなかった頃。
名柄の集落のとある農家で、ニワトリの夫婦が飼われていました。
飼われたニワトリの暮らしは、心細いものです。メンドリは、せっかく生んだ卵を人間に持って行かれます。オンドリは、いつか人間に食べられてしまうかもしれません。メンドリだって、卵を生めなくなればそうなるでしょう。
オンドリが言いました。
「ぼくたちはいつも地べたばかりを見て、えさをついばんでいる。それに引き替え……」
見上げた空には、ルリカケスやアカショウビンやアカヒゲたちが飛び交っていました。
天を舞うきれいな鳥たちの姿は、神様の宝石箱からこぼれでた数々の宝石が、太陽を受けてキラキラ輝いているようにも見えました。その姿を見て、メンドリは大きくためいきをつき、言いました。「わたしたちも、あんなふうに飛べたらいいのに……」

3

ニワトリたちのいる農家の庭からは、湯湾岳のてっぺんがよく見えました。
「なあ、あの高い山まで行けば、ぼくたち夫婦だけでゆっくり暮らせるんじゃないかな?」オンドリが言いました。メンドリは悲しそうに言いました。
「そうね、空が飛べたらあそこまで行けるかもね」
「あきらめるのは早いんじゃない?」と、下の方から声がしました。見れば同じ庭に住むキノボリトカゲです。「がんばれば飛べるようになるかもしれないよ?」
「そうは言っても……」とオンドリ。「ぼくたちのからだは、飛ぶようにはできていないんだよ」
「バカだなぁ!」と上の方から声がしました。木の枝にとまっていたカラスです。「トカゲもニワトリも、ばかな生き物だ! 飛べないくせに空にあこがれたり、がんばれば飛べるとか言ったり!」
「わしもカラスと同じ意見だな」と草むらから声がしました。草をわけてニュッと出てきたのは、このあたりに住むおじいさんハブです。ニワトリたちとトカゲは、思わず身構えました。「あぁ心配せんでいい。今日は腹一杯だ。さて……生き物には、その生き物にふさわしい生き方というものがある。ニワトリはニワトリらしく暮らすがいい」

4

「ハブじいさんもいい事言うね」カラスが言いました。「ニワトリなんかつまらない。ぼくみたいに羽をスラッと長く伸ばして、優雅に風を受けてすべり飛ぶこともできないくせにさ!」
「今なんて言った?!」とオンドリ。
「え? 風を受け……」
「そうだよ! 大事なのは風を受けることなんだ! ありがとうカラスくん! 飛び方を教えてくれて!」
「ふん、くだらん!」そう言っておじいさんハブは、また草むらのなかに隠れていきました。
オンドリはメンドリに言いました。
「ぼくらは生まれたときから、飛び方を知らない。飛べるって思っていない。だから、飛べないだけなんだ。いい風に乗れたら、もしかして……」
「本当にそうなのかしら」とメンドリ。
オンドリは、メンドリをはげまして言いました。「とにかくやってみよう!」

5

オンドリとメンドリは、庭に生えたガジュマルの木の、いちばんしたの枝まで登りました。
そして強い風が吹いたときに「今だ!」と、羽をばたつかせて跳び上がりました。
風がニワトリたちの羽をふくらませます。ニワトリたちは、ふわっと宙をすべり、上へと浮き始めました、
「わたし、飛んでるわ!」とメンドリ。「このまま湯湾岳まで行こう!」とオンドリ。
が、そのとき風向きが変わりました。オンドリとメンドリは宙でよろけました。立て直そうと懸命に羽ばたきましたが、地面がどんどん近くなっていきます。
地面に落ちたニワトリたちに、カラスが笑いながら言いました。
「ほら見ろ! あんなにみっともなく羽をばたつかせたら、空を飛べるわけないじゃないカァ!」カラスはそう言い捨てて、飛び去っていきました。
オンドリは落ち込み、涙をぽろぽろこぼしながら、「やっぱり無理なんだ。ハブやカラスの言うとおりだよ。ニワトリにはニワトリの暮らし方と、運命があるんだ」と言いました。
メンドリはオンドリに寄り添い、優しく言いました。「でも一瞬だけでも飛べたわ。それにカラスさんは良いことも教えてくれた。私たち、慌てて羽をバタバタさせすぎだったのよ。強い風のときは、羽をしっかり伸ばして、優雅に風を受けなきゃいけないんだわ」
「優雅に……か」
「あきらめずに練習しましょう!」
「そうだね……。そうだね!」

6

その日から、オンドリとメンドリは、羽をしっかり伸ばす練習しました。
最初はうまく伸ばせなかったので、トカゲが仲間をたくさん連れてきて手伝ってあげました。ニワトリたちは、両方の羽の先をトカゲたちに引っ張ってもらいつつ、そのまま羽を止めて風を受ける練習をしました。月が満月になり、新月になり、また満月になる頃には、トカゲたちに手伝ってもらわなくても、ニワトリたちは羽を真横にまっすぐ伸ばせるようになりました。
次は、バサバサッ、ではなく、伸ばしたまま優雅にゆっくり羽を動かす練習です。これもトカゲたちが「はい、あげっ……さげっ……いちっ……にっ!」と号令をかけて手伝ってくれました。
珍しいもの好きのルリカケスも、時々庭に立ち寄って、飛ぶ方向の楽な変え方や、つむじ風に出くわしたときのよけ方など、ちょっとしたコツを教えてくれるようになりました。
毎日努力するニワトリたちを見て、がんこなおじいさんハブも、「この匂いの風のときは、雨が降るから飛ばん方がいい」とか、「この匂いの風が吹いたら、晴れる兆しだ。そしたら海から山へ向かって上向きの風が吹きだす」などと、風の読み方を、まったくわしの食い物の分際で、とボヤきつつも、丁寧に教えてくれるようになりました。
カラスも頻繁に様子を見にきました。が、相変わらずバカにしたように「カァ!」と笑うだけでした。

よく晴れた、ある日のこと。
オンドリとメンドリは、今までの練習の成果を、いよいよ試すことにしました。
「お別れだね!」とトカゲ。
「気が早いよ、トカゲくん」とオンドリ。
トカゲは、「あれだけ練習したんだもの。きっとうまくいくよ!」とはげましました。
オンドリとメンドリは、おじいさんハブに手伝ってもらいつつ、ガジュマルの木のてっぺんまで登りました。ハブが、木に登りやすいように、ハシゴがわりになってくれたのです。
木のてっぺんで、おじいさんハブは言いました。「あとはおまえたち次第だろう。慌てずにな。まったくニワトリというヤツらは、すぐ慌てるからなぁ」
「気をつけます」とオンドリは言いました。ハブが続けて言いました。
「そういえばカラスのやつが言っておった。いい風が吹きそうになったら鳴いて知らせるとな。まったくあいつも、自分で言えばいいものを……」
「おじいさん、今まで親切にありがとう」とメンドリがお礼を言いました。
「ふんっ。まぁせいぜいしっかりやれ」と、照れくささを隠すように、ハブは地面に降りていきました。

7

「いよいよだね」「いよいよね」
オンドリとメンドリは、心を落ち着けて、湯湾岳の方を向きました。
カラスが「カァ!」と鳴きました。同時に、強すぎず弱すぎない良い風が、海から山に向かって吹き始めました。二羽のニワトリは、羽をしっかり広げ、掴まっている枝を力強く蹴ると、慌てずに、でも素早く、羽を数回羽ばたかせました。
うまく風に乗れました。オンドリとメンドリの身体は、どんどん高く昇っていきます。
ハブやトカゲやカラスたちは、地面からニワトリ夫婦を見送っていました。二羽のニワトリは、天高く、白い翼を大きく拡げて、優雅に羽ばたいています。そして、湯湾岳の方に向かって、どんどんと小さくなっていきました。太陽の光を受けて銀色に輝くニワトリたちを見上げ、カラスが言いました。「ニワトリの羽は、あんなにきれいだったのカァ……」
そのとき、白い羽が二つ、キラキラ光りながら落ちてきました。天高く飛んだニワトリたちの羽でした。

8

トカゲは羽をひろい、「ニワトリたちの思い出にしよう!」と言って、地面に二本の羽をさしました。
翌日来てみると、羽は二本のヤシの若木になっていました。名柄の神さまが、ニワトリたちががんばって夢を叶えたことを称えて、羽をヤシの木に変えてくれたのかもしれません。羽はいつか朽ちてしまいますが、ヤシの木なら、ニワトリの夫婦が目指した空へと向かって、だんだんと伸びていきますから。

以上です。

お話中にいろんな生き物が出てきますが、奄美大島ではなじみ深いものたちです。個人的には見たことないのもいるけど。重要な役どころのキノボリトカゲは、宇検村で割とその辺にいました。カラスもよく見かけますが、東京で見るやつらとはちょっと種類が違うっぴです。なんというか、小ぶり?

ハブもその辺の草むらとかにいます。私はまだ遭遇していないけど。
宇検村で子どもたちと民話をつくるワークショップをやると、ハブの登場率がとても高いです。面白いのは、神様扱いだったり良い者扱いだったりする点。悪者という考え方はないようです。東京から来た私からすると、ただもう怖い存在なのですが。
でも、ハブがいるので奄美の自然は守られている、っていう話もありますし。

というわけで、いずれまた、残りの2編もブログに載せようと思います。