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ある学校で算数ラップを見たこと

ある学校へ事後フォローへ行った時のことです。

そこは3年間継続して、私のワークショップをやった学校です。
事後フォローというのは、ワークショップをやった学校に伺い、その後の様子を聞き、こちらの参考になる意見を聞いたり、学校側の参考になるかもしれない意見を言ったり。そんな感じのものです。

校長先生とのやりとりのなかで、何人かの子ども達が、算数の苦手なA君のために、担任の先生を交えて「算数ラップ」をつくった、という話を聞きました。
算数で習う面積を求める公式などを、ラップ調にして唄いつつ、踊ったりするそうです。校長先生によればかなり本格的とのこと。

へぇ、機会があったら見てみたいな。そんな機会あるかどうかわからないけれど。と、その時は思いました。

機会はその1時間後くらいにやってきました。

たまたまです。職員室の外(屋外)に、算数ラップをつくった子たちがA君を除いて全員いて、職員室には担任の先生がいる、という状況が生まれた瞬間がありました。校長先生がすかさず言いました。

「なぁ、あれをやってくれよ、算数ラップ」

普通こういうことを大人にいきなり言われたら、子供たちはどういう反応をすると思います?
私は、「えー、やだよー」だと思います。積極的な子達だったら、その後何回か、「お願い!」「えー?」というやりとりがあって、渋々、でも嬉しそうにやってくれる感じじゃないでしょうか。

この子達は違いました。

すぐさま担任の先生を交えて、集まってごにょごにょ言い出しました。
どうする? やる? みたいな話をしているのかと思いきや、踊りや全員で組むポーズがあるがその場にA君がいない、その穴埋めをどうするか、の打ち合わせでした。

打ち合わせは一瞬で終わり、算数ラップが始まりました。

♪いろいろな~、図形の~面積~

みたいなメロディ部分から、テンポの速いラップ調に移行。
複雑な振りを入れつつ、

平行! 平行!
平行四辺形の面積は
底辺かける高さ!

とか、全員で台形のポーズをつくり、

Dadadadadada台形台形の面積は
カッコ上底足す下底カッコ高さ割る2 Oh Yeah!

などとやっていました。時間にして1分半くらいでしょうか。

正直もっといい加減なものを想像していましたが、結構みっちり作り込んであって呆れ……いや感心しました。

すごいな、と思いました。

もちろんグループ創作でこういうものをつくる過程で、A君の頭にも公式がたたき込まれたのではないかと想像します。その場に本人がおらず、確認できなかったのが残念だけど。
でも、私がすごいと思ったのはそこではなく、以下の2つです。

1つ目は、担任の先生。別にリードしているわけではなくて、一緒につきあっているだけ(しかもそれを楽しんでいる)ということ。子ども達主導でことが運んでいました。中身もおそらく、子ども達が考えたものだと思います。子どものやることに正面から向かう合うのではなく、いつの間にか一緒に同じ方向を見ている感じがすごいなと思いました。

もう1つは、校長に「やれ」と言われて、かようにすぐやれてしまうこと。しかも結構高度な連携が必要なことを、適当に振って適当にやれてしまうノリは、ちょっと考えられません。良好な関係性、それと、(もしかしたら演劇のワークショップも含めて)今までやってきた色々なことの蓄積。それらが起こした力業だと思いました。

この学校の子達は、大人びているわけではなく、それぞれ年相応に、子供らしい子供です。が、ワークショップをやってもいろんなことが出来てしまいます。初めて行ったときも、こっちの用意した創作プログラムをハイテンポで消化してしまい、急遽新しいメニューを追加したほど。学校の雰囲気はのどかでとても良いです。同じ自治体のなかでは学力もいちばん高いそうです。

この学校はなんなんだろう、なにが違うんだろう、それを解き明かせばきっと、ワークショップにも教育にも役立つなにかがわかるかも、と思い、考え続けていますが、算数ラップを見て、また新しい考える材料をもらった気がしました。

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