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奄美大島でつくった新作民話『岩とポインセチアとパパイヤ』

昨年度(2011年度)も学校でのワークショップをたくさんやりました。
奄美大島の宇検村では3校。そのうちの2校では、学校内外の気になる場所から想像をひろげ、そこの由来となる民話をグループ創作し、パフォーマンス化する、というワークショップをやりました。

その、子どもたちが創作した民話を、私が文章として起こしたものがあります。全部で4つ。時々気まぐれに紹介していきます。(反応があればペース早めます。)

今回紹介するのは、宇検村立久志小中学校という学校でつくったものです。

同校の給食室の裏には、えーっポインセチアってこんなにでっかくなるの?! と言いたくなる巨大ポインセチアが生えています。うわっと見上げる大きさの、ふさふさなポインセチアを想像してください。はい、その想像よりも、2まわりくらい大きいです。
で、そのそばには大きな岩。そのあたりはハブが出てくる可能性が高いそうな。

そんなところから、その場所はなんでそうなっているんだろう、とウンウン頭を付き合わせて空想し、ディスカッションし、キャラクターをつくり、プロットをつくり、パフォーマンス化していきました。子どもたちが。

私はそのプロットから、これから紹介する「お話」を書きました。なので、以下の文章は私の著作物です。が、話の大筋をつくったのはあくまでも、久志校の子どもたちです。

以下。

岩とポインセチアとパパイヤ

久志小中学校の給食室の裏に、大きな大きな岩があります。そのそばには、まるで岩と並ぶように、咲きほこるポインセチアと、パパイヤの木が立っています。
いつからそこにあるのでしょうか。これには悲しい云われがあります。
それは……。

むかしむかし、久志小中学校もなく、まだそこに、岩もポインセチアもパパイアも無かった頃のこと。
そこには焼酎職人の太郎が、一人で暮らしておりました。
太郎は真面目で、「もっとおいしい焼酎をつくって、みんなを喜ばせたい!」といつも思っていました。

太郎の元には、時々「遊ぼう!」とハブが訪ねてきました。太郎とハブは、ケンカをしても、すぐに仲直りする友だち同士でした。
太郎は新しい焼酎を作るたび、友だちのハブに飲ませてやりました。
「この焼酎もおいしいね!」
「いやいや、こんなものではまだ足りない。もっとおいしくつくれるはずだよ!」

そんな真面目な太郎に恋をする、おはくという女がいました。おはくは、毎日弁当を作り、焼酎づくりにはげむ太郎のもとへ届けていました。
太郎は焼酎づくりで忙しかったので、弁当をつくってくれるおはくのことを、ありがたく思っていました。

ある日のこと。
思うような焼酎が作れず、焼内の海に向かってうなだれている太郎に、声をかける者がいました。
「どうかしましたか?」
太郎が振り返ると、そこには旅姿の美しい女性が立っていました。
太郎はその美しさにしばし見とれました。そして、ハッと我に返り、たずねました。
「失礼ですが、どちら様でしょうか」
「私は旅の歌い手で、おなつと申します。集落から集落へと旅をしながら、歌をうたい、暮らしております。見れば深くお悩みのご様子。なにかお力になれることがあればと思い、つい声をおかけした次第でございます。」
その声は、鈴の入った鞠がころころ転がるように、とても美しく響きました。

太郎は事情を語りました。おなつは太郎の話を熱心に聞きました。
すべて聞き終わるとおなつは言いました。
「歌は人の心に届け、いやすものです。心を込めてお作りならば、その焼酎にもきっと心が宿ります。私の歌も届くはずです。」

焼酎のカメを前にして、おなつは歌いました。その歌声は、まわりの花や木々にも染み渡りました。いつのまにかハブもやってきて、おなつの歌に心地よく聴きほれました。

歌のあと、ハブは焼酎を一口飲んでみました。ハブは金色の目をまんまるにして、大きな声で言いました。「おいしい! こんな焼酎は初めてだよ!」
焼酎は良い香りの、まろやかでやわらかい、どんな焼酎よりもおいしいものになっていました。

太郎の強い願いを受け、おなつはしばらく久志の集落に留まることにしました。
そして毎日太郎のところに行き、焼酎のカメに歌を聴かせました。
太郎もハブも一緒になって歌いました。みんなで歌うと、焼酎はさらにおいしくなりました。
ほどなく太郎とおなつは、気持ちを通わせあう仲になりました。

面白くないのはおはくです。
おはくが弁当を届けても、太郎はおなつと幸せそうに歌ってばかりで見向きもしません。
食べてもらえない弁当を持って、悔しい思いをしながら帰る毎日が続きました。

やがて、太郎とおなつは、祝言※をあげました(※結婚のことです)。二人は助け合いながら、仲良く暮らし始めました。

おはくは何日も何日も、家のなかにこもって泣き続けました。
たくさん泣いているうちに、太郎への恋心は、恨みへと変わっていきました。
「あんなに尽くしたのに、私をひどい目に合わせて……許せない!」
涙も出なくなるくらい泣いたあと、おはくは、ある思いを抱き、草むらをかきわけ、山の奥へと入っていきました。その姿を見た者は皆、丸呑みにされてしまうという、おそろしいハブの神様に会うためです。

深い森の奥を何日もさまよい、おはくはハブの神様にようやく出会いました。神様は、大人の背丈の何倍もある長さの、大きなハブの姿をしていました。
神様は大きな口をガッと開き、大地にとどろく声で言いました。
「人間の女がこんなところになんの用だ?! 事と次第によっては丸呑みにしてしまうぞ!」
「お聞き下さい。ふもとの村で焼酎を作っている太郎とおなつが、あなたのしもべのハブを焼酎に漬けて飲んでしまおうとしています。私はそれを知らせに参ったのでございます。」
「なんだと?! それが本当ならただでは済まさん!」

怒ったハブの神様は、おはくを背中に乗せて天にのぼりました。
「神様! あちらでございます! 今にもハブを焼酎に漬けこもうとしております!」
おはくが指をさした先には、焼酎ガメのそばで歌う太郎とおなつがおりました。そのそばには確かにハブもいました。
「許せん! 人間どもめ、岩なり草木なりになってしまえ!」
神様はそう叫び、大きな雷を落としました。
すると濃い煙がボンッとあがり、太郎は大きな岩に、おなつはポインセチアの花に変わってしまいました。

おはくは満足でした。これで太郎は自分だけのもの。邪魔なおなつも、今や動けぬポインセチアです。おはくは毎日、岩になってしまった太郎を磨きに通いました。
ですが不思議なことに、毎日どれだけきれいに磨いても、次の日には岩は、必ず葉っぱだらけになっています。
おはくは隠れて様子を見ることにしました。夜になると、ポインセチアからかすかに歌が聞こえてきました。耳をすませば、それは確かに、あのおなつの歌声です。
ポインセチアが歌うたび、その葉っぱが風に乗って岩まで届きました。
おはくは、姿を変えられても仲良く過ごす二人を見て、また涙が止まらなくなりました。

再びおはくはハブの神様に会いに行きました。そして今までのことを正直に話しました。そして、「私もおなつと同じように、あの人のそばで暮らしとうございます。私も草木に変えてくださいませ」と頼みました。
神様は、おはくが嘘を言って、太郎とおなつを岩とポインセチアに変えさせたことに、腹を立てました。ですが、太郎に一途な思いを抱くおはくという女が、少しかわいそうにも思えました。

ハブの神様はおはくを、太郎だった岩のそばに連れて行き、また雷を落としました。濃い煙がボンッとあがり、おはくはパパイヤの木になりました。

今でも、大きな岩とポインセチアのあるところでは、夜になると歌が聞こえてきます。
岩のそばには、太郎の友だちだったハブの子孫が住んでいます。
そして少し離れたところでパパイヤが、淋しそうにその枝を揺らし続けています。

以上。

話自体は、正真正銘、久志校の小中学生たちがつくりました。それにしては情念の絡む切ない話ですなぁ。おはく、かわいそう。

唄を歌って焼酎をまろやかにする、というのは、宇検村に工場がある開運酒造の焼酎「れんと」からのアイデアでしょう。れんとは、醸造タンクに振動スピーカーでクラシックを流して続けて醸造します。なんて非科学的な! って最初は思っていました。でも工場見学したら科学だとわかりました。いろんな周波数の振動を当てて、アルコールの分子クラスターをほぐしているそうな。クラスターがでかいと尖った味になるそうな。

ホントに子どもたちだけでこんな話がつくれるの? と思うかもしれませんが(私自身そう思ってしまうところがありますが)、ちゃんと筋道立てて3~4回ワークショップすれば、つくれます。大ざっぱに言うと、戯曲を書くプロセスをなぞっている感じです。

久志校でつくった話はあと一つあります。仲良しケンムン兄弟の、これまた切ない話。ケンムンというのは、奄美大島の、ガジュマルに住むカッパにちょっと似たところのある妖怪というか精霊というか。気が向いたらまた公開します。

以上、明日から打ち合わせで奄美へ行くので、自分用の思い出しをかねたエントリーでした。